こんな詩はプロ詩人でもそうそう書けはしまい

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 作品の出来映えが名の通ったプロ詩人でもそうそう書けるものではない高みに届いている。この無名詩人に創作の神が降りてきてこんな詩を書かせた。そういう外に言葉がみつからない。この詩を読みながら感動で涙が溢れてきた。書いた詩人当人でさえ読むと涙するそうだから、一編は本当に神の手技によるものなのかもしれない。



おとくしゃん
 
とってもとっても 小さい頃
おとくしゃんがやってくる

母から耳にしたことがある
 
感応する 耳
耳へ 耳から 耳まで 
伝播する 母
ことばのからだがあたふた走る
 
見たことはない
おとくしゃん
どんな沈黙が なたを持ち髪ふり乱し
駆けてゆく
ことになったのか
見たことはないのに
描いてしまう
こわい像がある
声が からだの暗い洞窟に伝播して
どこからか立ち上ってくる
ひとりの異形の女
 
物語はいつも善意の滴で脚色されて
語られることのない
ダークマター
語り出されない
沈黙の歴史
沈黙へ 沈黙から
その沈黙の
 
言葉に 言葉が 辱められ
ことばのたましいは
安らぐちいさな床も 踏み抜かれ
ねじれ墜ちる 日々の沈黙 燃え
降り積もる灰 燃え
じっとり濡れる
沈黙の肌へ
肌から 肌へ とげを立て 緘黙
すべてのものの名は燃え
灰と化した一縷の希み
脱ぎ捨てて
ひとり 草のつるぎ持ち
狂おしい奇声を発して
駆けてゆく
 
(今なら少しはわかるような・・・・)
 
ほんとうに こわい
のは
おとくしゃん
ではなくて
ひとりの女が出会い 出会った 出会え
矢尽き 刀折れ
ぼろぼろの弓
なりの沈黙の稜線
見渡せる風景は 透明で 乾ききり
劇は幕が上がることなく 深く
進行する
病んだ木の葉も降り積もる
明かされない黙劇
沈黙は言の葉になれずに 失踪する
ゆがんだ木に 織り込まれた
緘黙のゆめ
全ての風景を 濁流と化し
濁流にのみ込まれ
濁流を飲み込み
 
(観客はおののき 濁流から遠く遠く引いていく
困惑の潮 潮の民話)
 
かなし ゆめ ながれ
流れ 流れて
どんより 重たい
言葉の地層におぼれている
ことばのたましいは
ことばのたましいを
 
(物語は騙ることを 深く 拒絶 され て いる)



 この作品に寄せた詩人の自註ともよぶべき一文を引用する。



3.実は私が小さい頃、精神を病んだ者のうわさを聞いたことがある。また、少年時代には「監置所」に相当する小さな真っ黒の建物が宅地の横に立てられているのを偶然に目にしたことがあった。どうして「監置所」に相当する建物と分かったかといえば、自分の親から聞いたんだと思う。そして、そのような小さい頃の耳と目の体験を基に2007年8月に次のような詩を書いたことがある。



*詩本編、自註ともにアメーバブログnisiyanさんの
《覚書2018.5.13―ETV特集 アンコール「長すぎた入院」を観て》からの引用である。